レビュー

仮面舞踏会(東京二期会オペラ劇場)

(2007年9月 9日 16:35)

2007年9月6日(木)8日(土) 東京文化会館大ホール

指揮 オンドレイ・レナルト

演出 粟国 淳

ウォーウィック伯爵リッカルド ボストン知事 福井敬 
レナート リッカルドの秘書でアメーリアの夫 福島明也 
アメーリア 木下美穂子 
ウルリカ 占い女 押見朋子 
小姓オスカル 大西ゆか 
水兵シルヴァーノ 佐藤泰弘 

管弦楽 読売日本交響楽団

写真提供 竹原伸冶

 

                                                                                        


 

 

二期会がその55年の歴史の中で始めて取り上げる作品となった「仮面舞踏会」。ヴェルディ中期の傑作。この作品は主人公が最後に暗殺されるというオペラなのに、あまり悲劇的な印象を受けない。リッカルドは全盛を行う統治者でありながら、部下の妻をよ愛してしまう。アメーリアは、善良な夫人でありながら、リッカルドを思い続けている。レナートは忠実な部下でありながら、暗殺者になってしまう。「仮面舞踏会」の登場人物は善悪の二面性を持つ。このような登場人物の二重性、それに伴う男と女の葛藤、舞踏会と殺人事件とのコントラスト、そして、悲劇の中でオスカルや周りの出演者による<笑い>がヴェルディの数多くのオペラの中でも「仮面舞踏会」を特に立体的で豊かな作品にしている。(公演プログラムより抜粋)

福井敬さんのリッカルド。木下美穂子さんのアメーリア。福島明也さんのレナート。この3人が見事にこの仮面舞踏会を表現していた。ヴェルディの音楽はどこをとっても美しく、でも内容は三角関係のもつれからの殺人というどろどろしたもの。3人とも長大なアリアが交代で続き、演出は奇をてらわないオーソドックスなものなので、歌手の表情と歌だけでこの心理劇を進めていかなければならない。聞いているほうは、思いっきり歌が聴け、音楽を堪能できるオペラだけれど、歌手にとっては大変な作品だったに違いない。

 

 (出演者と公演監督の高丈二さん)

 

福井さんは、このような心情を劇的に表現するようなオペラにおいて、彼の真骨頂を発揮された。福井さんの声はもちろん輝く美声。トゥーランドットで福井さんのアリアを聴いて、その美しい声に圧倒されていっぺんにファンになった方も多いと思う。でも、声だけではなく、福井さんのすごいところはその表現の深さ、濃さ、幅広さにある。たとえば、福井さんのリッカルドが舞踏会に行く前に歌う有名なアリア「永遠に君を失えば」。これなどは、よくテノールのアリア集などで有名な歌手がよく歌っている。とても美しいアリアで、いつか福井さんでこのアリアを聴いてみたいと思っていた。今回それが実現したわけだが、余りの違いに驚いた。確かに美しいアリアなのだが、福井さんが歌うと、この場の中でのリッカルドの心情、その葛藤する心、切迫感、どうしようもない理不尽な想いが表現され、ただの美しいだけのアリアにはならなかった。美しい曲を、美しい声で、美しく表現する歌手はたくさんいる。ましてや、美声であるがゆえにその声を誇るような歌い方をする歌手には、腹立たしいものさえ感じるが、福井さんの場合は美声であるにもかかわらず、それを誇ることなく歌の持っている心情を表現することに全身全霊を尽くしておられる。それが、聞いている私達に感動を与えるのだと思う。

 

今回は、木下さんも去年の「蝶々夫人」に続いて、成長著しく堂々とアメーリアの大役をこなされ押しも押されもせぬ二期会プリマ。福島さんは、久々に福井さんとのコンビで、お人柄がしのばれる暖かい声で善良なレナートと、裏切りを知ったときの壮絶な想い、その後の悲しみを余すところなく表現しておられた。オスカルの大西ゆかさん、ウルリカの押見朋子さんも好演で、重要な役周りを余すところなく演じており、合唱もとても美しかった。

今回も二期会公演は大成功だったといえるのではないだろうか。

 

 

(リッカルドの福井さんと、レナートの福島さん)

 


東京二期会より、仮面舞踏会のカーテンコールの写真を送っていただきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

写真提供 東京二期会


 

 

ご覧になった方からの感想です。ありがとうございました。 

生のオペラが初めての友人と行きました。何ヶ月も前から予習をして話題にして二人でとても楽しみにしていました。もっと軽薄な話かと思っていましたが、実際に観るとリッカルド、レナート、アメーリアの三者三様の想いが泣けて泣けてしかたがありませんでした。特に、処刑場でのリッカルドのアメーリアに告白する歌があまりにも素晴らしく力強くて、体全体が震えました。こんなにも人を愛する事ができるのでしょうか。不倫だとかそんな概念は飛んでしまって、リッカルドのあまりに強い想いにせつなくて泣けてきました。木下美穂子さんも福島明也さんの歌も素晴らしく、字幕を見るのももどかしくて聴き入ってしまいました。最後、リッカルドがレナートに刺されて死に行く中で、最後の力を振り絞って歌うアメーリアへの強い想い、レナートへの強い想い、祖国アメリカへの強い想いが痛いほど伝わってきて、涙、涙。歌がこれほどまでに感情を伝えるものなのかと本当に感動しました。感動で久しぶりに体中が上から下まですっきりしました。帰り途、バスの中で福井さんの歌を思い出したら、ふいに涙がにじんできてひそかに涙を流しながら帰りました。(Y)

 

仮面舞踏会は悲しみも苦しみも深く重く、それなのにとても美しく感動的な…素晴らしいオペラでした。 
イタリア語なのにこんなに感情が伝わってくるのは訳詞ばかりではなく、福井さん、木下さん、福島さんという最高の演奏者の力だと思いました。日本にこんな素晴らしいオペラがあるのだと、こんなに素晴らしいが演奏家がいるのだと自慢したい気持ちでした。
それにしても福井さんの歌も演技も最高で、いつまでも第一線で輝いていてほしいと思うばかりです。
そんなすごいお仕事でどんなにかお疲れのはずなのに、サイン会ではファンの一人一人に丁寧に接していらして…細やかに気遣っていただき、本当にいつも恐縮しながら暖かいお心にとても幸せを感じています。