レビュー

こびと~王女様の誕生日~

(2007年11月26日 22:41)

11月25日 14時開演 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールにて

指揮 沼尻竜典 
演出 加藤 直 
管弦楽  京都市交響楽団 
  
こびと 福井 敬 
ドンナ・クラーラ(スペインの王女) 吉原 圭子 
ギータ(王女のお気に入りの侍女) 高橋 薫子 
ドン・エストバン(侍従長) 大澤 建 
侍女Ⅰ 黒澤 明子 
侍女Ⅱ 佐藤 路子 
侍女Ⅲ 渡辺 玲美 
王女の女友達Ⅰ 黒田 恵美 
王女の女友達Ⅱ 栗原 美和 
王女お女友達(女声合唱) びわ湖ホール声楽アンサンブル 


オスカーワイルドの童話「王女様の誕生日」を19世紀末の作曲家ツィムリンスキーが作曲した1幕もののオペラ。マエストロ沼尻竜典のびわ湖ホール就任のオペラ1作目でもあり、以前、演奏会形式で上演したものの、舞台上演としては日本初演。あらゆる意味でとても意欲的なプロダクションだった。また、オーケストラ、キャストも共にレベルが高く、はるばる行くびわ湖ホールオペラは全くはずれがない!

「こびと~王女様の誕生日」は爛熟したロマン的被疑貴と現代性が交錯する音楽が、優れた歌手である小人の悲劇を際立たせながら、芸術とは、自己とは、愛とは何かを問いかけていく(プログラムから抜粋)。とはいえ、古典の曲とは違い、初めて聞く人には難解なところもある音楽と、啓示に満ちたドイツ語の歌詞はやはり敷居が高い。それを見越してか、オペラの前に、イントロダクションとしてオスカーワイルドに扮した俳優の内田紳一郎とマエストロ沼尻が、芝居仕立てでこのオペラの解説をしてくれた事はとてもありがたかった。マエストロがこのオペラにかける情熱も垣間見られ、その後のオペラへの期待感もいや増した。

こびとのタイトルロールを歌われた福井さん。なんだか、まさに福井さんのために用意された役のようだった。このこびとは歌の名手だが鏡を見たことがなく、自分の醜さを知らずに、自分のことを高貴な騎士だと思っている。しかし、あるきっかけがもとに、大きな鏡を見てしまい、王女からもあなたは動物みたいと言い放たれ、鏡を見る前に王女からもらった白い薔薇の花(実はからかわれてもらったものだったが)にキスをして、絶望のあまり息絶える。福井さんの哀愁のこもった響きで、最初は歌の名手としてロマンティックなメロディーの歌を聞かせるが、自分の姿を知ったときの叫び声から、物語が一気に悲劇へと突入する、そこからは、独断場だった。いくら否定しても、そこには醜い自分が映っている。こびとの必死の歌に何がなにやら、わけもなく涙があふれ、鳥肌が立ってくる。

それとは対照的に、周りの王女や侍女や、王女の友達は退廃的で、高慢な態度でこびとをあざわらう歌を歌い、演技をする。その対比が鮮やかで、歌も演技もとても達者な人たちと、世紀末の退廃的なムードをただよわせた衣装や演出がこのツェムリンスキーの音楽とマッチしていて、不思議な感覚に陥った。

このオペラにかけるマエストロの意気込みと、それに応える優秀なスタッフによって上演されたこのオペラ。たった1日。しかも、びわ湖ホールのみとは、もったいない。是非とも東京での再演を望みたいところだ。

   


 

 

 

 

 

読者の方より、早速感想を頂きました。

管理人様いつもお世話になっております。早速ですが「こびと」@びわ湖ホールの感想を少しお知らせします。沼尻竜典オペラセレクションツェムリンスキー作曲歌劇「こびと~王女様の誕生日~」全1幕2007年11月25日14:00滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール大ホールⅠ歌劇「こびと」へのイントロダクション出演:内田紳一郎Ⅱ歌劇「こびと~王女様の誕生日~」こびと:福井 敬ドンナ・クラーラ:吉原 圭子ギータ:高橋 薫子ドン・エストバン:大澤 建指揮:沼尻竜典オケ:京都市交響楽団「こびと」そのものは1幕物ですが、通常のオペラ演奏ではない俳優内田さん演じる原作者オスカー・ワイルドと沼尻さん演じるツェムリンスキーの掛け合いによるイントロがあり、日本初演に対する観客への細かい配慮があり予習なしでも十分楽しめました。本編の方ですが、オーバーチェアでは美しいメロディに酔いしれていたのですが、その後多少眠気を感じながらも福井さんの登場と伴にその表現豊かな声と迫真の演技でぐいぐいと舞台に引き込まれ、最後には主人公の境遇に対する気持ちに胸いっぱいになりいたたまれなかったです。救われないオペラでしたが、一見の価値はありましたし、何よりこの主人公がやっぱり福井さんだったからこそすばらしいものになったのではないでしょうか。
(匿名希望)

 

 


皆様から、いくつか感想をいただきました。ご紹介します。また福井さんからも、短いですがお礼とコメントを頂きました。


 

 

 

 

 

 

先日はありがとうございました。あのオペラは、民族、階級、加害者、被害者、あらゆる時代、人々にも通じるテーマを孕んだオペラだと思います。見た方それぞれが何かを感じて下さればよいのですが。本当にありがとうございました。(福井敬)

 

最初にオペラの内容の重さを少しの笑いの中でかみ砕いての説明があって、導入がとてもよかったと感じました。
それでも・・・
私も「まさに福井さんのために用意された役」と感じました。 でもあんな重い役をされて、昨日までずっとそれを通してこられて福井さんの心は大丈夫かなと・・・でも、役を引きずらないということがプロに必要なのでしょう。
こびとが、福井さんがすべてを引き受けて、内容の深さも音楽も非常に引き上げた・・・福井さんだからそうできたし、それがこのオペラの目指すところだったのだと思います。
王女様が時々凛とした態度になる瞬間にこびとと気持ちを通わせるのかと思ったらそうでもなく、18歳の王女様としてはあまりにも軽くて、人間としてちょっと理解しがたかったのが正直な所です。
でも作者自身は自分の経験の中から王女様や侍女たちをあそこまでおとしめる気持ちを感じていたのかと、そう思うと悲しい気持ちになりました。
とても全部わかるわけではありませんがドイツ語のニュアンスも理解しようと努力しました。
結局いつもとは違ったとても重い気持ちで帰ってきました。
感動はすごく大きいし、福井さんの声はいつもにましてはっきり残っていますがちょっとつらい。でもそのつらさはオペラの中に置いて、明日からは音楽だけ気持ちの中に残しておきたいと思っています。(2007年11月26日 O.Yさん)

 

舞台を観る前に、音楽が現代音楽のようなので理解できるのかという不安と、こびとがあまりにも醜くかったらどうしようという不安とがありましたが,思ったよりわかりやすいおとぎ話のような音楽で安心しました。こびとは、福井さんのお顔のメイクが美しかったので、醜いというよりは恋する美青年に見えてしまって困りました。でも、こびとの心の中は自分のことをその通りにみているのでこの見方で良いのだと途中から納得しました。王女様に対するこびとの愛の歌は純真な心がそのまま表現されていて、本当に素晴らしかったです。ただ、最後のこびとが自分の醜さに絶望するシーンでは、どうしても醜く見えなかったので感情移入できなかったことが寂しかったです。(2007年11月27日 Yさん)


 
管理人さん今晩は。25日、9時半過ぎの新幹線でびわ湖ホール目指し行って来ました。7月のイドメネオ(?)、仮面舞踏会と台風に見舞われましたので、まさか関ヶ原あたり雪で新幹線徐行なんてことにならないかと心配しましたが、朝から絶好の紅葉狩り日和となり、予定時間通りにびわ湖ホールに辿り着くことができました。 とても立派なホールでビックリしました。入り口正面がロービーで、全面ガラス越しに広がるびわ湖の景色に目と心を奪われてしまいました。将来、湖上に舞台を造ってスペクタクルオペラなんて、どなたかプロデュースしてくれませんかね。 「こびと」、期待通り素晴らしかったです。一部の沼尻さん扮するツェムリンスキーと内田紳一郎さん扮するオスカーワイルドのイントロダクション、分かり易く楽しかったですが、期待が高まったところで20分の休憩が入ってしまうのは、如何なものでしょうか。ちょっと気が削がれました。衣装、装置、そして照明良かったと思います。音楽も世紀末的なコスモポリタンな匂いがしました。いつ福井さんが登場してくるか待ち遠しかったです。まさか赤と黄色のフリフリドレスで白塗りマスクで、膝歩きで登場とは想像しませんでしたが、とても可愛いかったですよ。吉原さん、高橋さん、そして大沢さんもお歌もお芝居も素敵でしたが、やはり福井さんあっての「こびと」でした。こびとの心の美しさと深い悲しみを美しい声で表現してくださいました。2度の絶望の叫び声に圧倒されました。「本当の美しさとは何か」永遠のテーマですね。子供たちにも是非観てもらいたいなと思いました。 私にとってはとても贅沢なオペラ鑑賞でしたが、なんか病みつきになりそうです。来年もよろしくお願い致します。(2007年11月28日 O.Sさん)

 


12月7日付けの朝日新聞夕刊に「こびと~王女様の誕生日」の記事が掲載されていました。