レビュー

ブリテン歌劇「ピーター・グライムズ」(演奏会形式)

(2008年9月26日 09:29)

札幌交響楽団第511回定期演奏会

2008年9月19日(金)、21日(日)  札幌コンサートホール kitara

指揮:尾高 忠明  

ピーター・グライムズ:福井敬(T) 、
エレン・オルフォード:釜洞祐子(S)
バルストロード:青戸知(Br)
ホブスン:三原剛(B)
スウォロー:久保和範(B)
アーンティ:小川明子(A)
姪1:鵜木絵里(S)、姪2:平井香織(S)
ボブ・ボウルズ:小原啓楼(T)
牧師:湯川晃(T)
セドリー夫人:岩森美里(Ms)
ネッド・キーン:吉川健一(Br)
札響合唱団、札幌アカデミー合唱団 、札幌放送合唱団(合唱指揮:長内勲)


 

 

 

わざわざ札幌まで出かけたかいのある演奏会でした。ソリストだけで12人、合唱に、大編成のオーケストラと札響の特別企画としての大掛かりな演奏会で、指揮者の尾高さんはイギリスBCCウェールズ交響楽団桂冠指揮者としてもご活躍です。英国音楽のすごさを思い知りました。

ブリテンの歌劇「ピーター・グライムズ」は20世紀オペラの傑作ですが、それほど演奏機会もありません。イギリスはシェークスピアに代表される演劇の国、当然オペラもセリフ劇のようです。プロローグ付きの3幕からなるオペラで、各幕は2場ずつで、各場面の間に間奏曲があります。間奏曲が各場面の情景や登場人物の心理状態を表していて、幕が上がると(今回は演奏会形式なので幕はありませんが)登場人物が語るような、歌うような感じで進んでいきます。セリフだけのところや、モノローグでほとんど伴奏なしの歌のようなところが一杯あって通常のオペラとはかなり違います。

福井さんは、タイトルロールのピーター・グライムズ、ピーターが思いを寄せる女性エレンを釜洞祐子さん。二人を見守る退役船長を青戸知さんが演じておられました。頑固で周囲の人達に順応できないピーターが、最後は完全に孤立して舟とともに消えていきます。その最後のモノローグを福井さんが語られた(歌った)歌が、この舞台のクライマックスですが、そのときのどうしようもない気持ち、冷たい世間に対する孤独、愛する人にわかってもらえないつらさ、など万感の思いがこもっていて本当にジーンときました。

そこにいたるまでには、オケによる情景描写のうまさ、村人の容赦ない言葉の合唱、ソリストたち各々の的確な人間描写による歌唱など、全てにおいて完成度の高い舞台で、3時間に及ぶ舞台で完全にその世界に引き込まれてしまったからなのだと思います。福井さんもすごかったけれど、ソリスト全員、オケも、合唱もみなブラボーの演奏会でした。

この舞台をご覧になった読者の方からも感想を頂きました。

管理人様いつもお世話になっております。久しぶりに、福井さんがタイトルロールを務められたブリテン/歌劇(演奏会形式)「ピーター・グライムズ」@札幌コンサートホールKitaraの感想を簡単にお知らせします。

プロローグを含む3幕もので、約3時間少々と交響楽団の定期演奏会としては、ちょっと長めの演奏会だと思います。ブリテンのオペラが日本で取り上げられることは演奏会形式を含めてもかなり稀れなことで私自身数年前までは「真夏の夜の夢」しか知りませんでした。今回指揮をされた尾高さんはBBCウェールズの交響楽団の主席指揮者をなさっていた経験からイギリスの音楽に造詣が深く、その彼でさえ「ピーター・グライムズ」を振られるのは2度目ということで、このチャンスを逃したら次回がいつのことになるか分からないし、ましてやそのタイトルロールを福井さんが務められるという事で遅めの夏休みで札幌に飛んで聴いて来ました。

ストーリーについてはウィキペディア等でご確認していただくとしてここでは省略します。演奏の感想は、福井さんをはじめソリスト、合唱、演奏のどれもがとにかくすばらしく、普通の定期演奏会の演奏ということがもったいないぐらいで、わざわざ札幌に足を運んだ甲斐がありました。

尾高さんの指揮から奏でられる演奏からはイギリスの荒れ狂う海と海岸線の情景が手に取るように脳裏に浮かんできますし、福井さん演じるピーターは、刻々と変わる主人公の感情がその歌声からにじみ出て哀しくもあり、恐いぐ

らいでした。その複雑で難しい役どころを豊かな表現力のあるすばらしい声で歌われ、こちらは圧倒されっぱなしでした。また、相手役の釜洞さんの限りなく優しいエレン、青戸さんや三原さんをはじめ実力派歌手の皆様によって脇が固められ、本当に聴きどころ萬歳で演奏会形式にも拘らず舞台を見ているかのような錯覚すら覚えました。うわさでkitaraはいいホールだと聞き及んではいましたが、実際に伺ってみて、それを体で実感し、また機会があったら何度でも行きたいと思える素敵なところでした。

なお、19日の演奏がNHK-FMにて放送(北海道内)されるそうですので道内にお住まいの方は、是非聞いてくださいね。