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詩人の恋 日本語訳 (7~14) 失恋の悲しみ

(2012年9月 1日 17:12)

7.「たとえ我が心破れても、嘆くまい」

たとえ、我が心破れても、恨み言は申すまい。
愛は永遠に失われた! 嘆くまい。
ダイヤモンドの燦然たる輝きの中でさえも、
あなたの心の闇にわずかな光もささないであろうことを、
私はすでにわかっていた。

たとえ、我が心破れても、嘆くまい。
私は夢であなたを見た。
そしてあなたの心の闇を見た。
そして蛇があなたの心を噛むのを見た。
私は見た、恋人よ、なんとあなたは惨めであることか。
私は恨み言は申すまい。

8.
「花が、小さき花が、それを知ったなら」

どれほど深く、私の心が傷ついてしまったか、      
花が、小さき花が、それを知ったなら、
私の心の痛みを癒すため、
花々は私とともに泣いてくれるでしょう。

そしていかに私が嘆き悲しんでいるか、  
ナイチンゲールたちが、知ったなら、
彼らは喜んで、
私の心を元気づけてくれる歌を歌うでしょう。

そして黄金色の星々が、
私の悲哀を知ったなら、
彼らは天の高みから降ってきて、
私を慰めてくれるでしょう。

しかし、彼らは何も知りはしない。
ただ一人の人だけが、私の心の痛みを知っている。
なぜなら、彼女こそが私の心を砕いた人なのだから。

9.
「笛の音と弦の響きありき」

笛の音と弦の響きが聞こえる。
トランペットが鳴り響き、
婚礼の踊りを踊っている。
私の最愛の人が。

曲の調べはリンリンとそしてゴロゴロと、高く低く鳴り響き、
太鼓と笛の音も聞こえる。
その中ですすり泣き、うめき声をあげている。
かわいらしい小さな天使達が。

10.
「私があの歌を聴くとき」

かつて最愛だった人が歌ってくれた、
あの歌を聴くとき、
激しい胸の痛みに
私の胸は張り裂けそう。
抑圧された暗い恋心は、
私を小高い森へといざなう。
私の大きな悲しみは
とめどない涙となる。

11.
「ある若者が若い娘に恋をした」

ある若者が若い娘に恋をした。
娘は別な男を好きになり、
その男はまたさらに別の娘と愛し合い、
結婚してしまった。



娘は腹を立て、         
次に彼女のところへやって来た最初のいい男と、
かまわず一緒になった。
これを知った最初の若者はひどく傷ついた。

これは昔の話しだが、
こんなことはいつだってある。
こんな目にあったなら、
心が真っ二つになってしまうだろう。

12.
「よく晴れた夏の朝に」

よく晴れた夏の朝に、
私は庭を歩きまわる。
花々はささやき、語りかけるが、
しかし私は黙ってさまよい続ける。
花々はささやき、語りかけ、
そして彼らは私を同情深げに見つめて、こう言う、
「悲しげな青ざめた男さん、どうか私達の姉を怒らないでね。」


13.「私は夢の中で泣いた」

私は夢の中で泣いた。
夢の中で、あなたはお墓の中に横たわっていた。
私は目を覚まし、それでもなお、
涙は頬を流れ落ちていた。

私は夢の中で泣いた。
夢の中で、あなたが私を捨てて去るのを見た。
私は目を覚まし、いつまでもひどく、
泣き続けた。

私は夢の中で泣いた。
夢の中で、あなたはなお、私に優しくしてくれた。
私は目を覚ましたが、
いつまでも涙を流し続けていた。

14.
「毎夜、夢であなたに会って」

毎夜、夢であなたに会って、
あなたの親しい挨拶を受けると、
私は大きな声で泣き叫びながら、
あなたの美しい脚元に崩れ落ちる。

あなたは悲しげに私を見て、
それから金髪の頭を横に振り、
あなたの目からひっそりと
真珠の涙をこぼす。

あなたは私に優しい言葉をささやき、
そして糸杉の輪(愛人の死の象徴)をくれる。
目が覚めると、輪は消え、
私は彼女の言葉を忘れてしまった。

「糸杉」はギリシャ神話以後、文学上は死の象徴として登場します。医術の神アポロンと恋人の美少年キュパソリス(サイプレス=糸杉)の哀しいロマンスが有名です。ギリシャ近くのキプロス島に、ニンフ達のかわいがっていた牡鹿がいました。牡鹿は美しく飾られ、人々に慈しまれて、キュパリソスも牡鹿をこよなく愛していまし た。しかし、ある日キュパリソスは槍投げの練習をしている時に、誤って牡鹿を殺してしまいました。キュパリソスは嘆き悲しみ、自分も死んでしまいたいと言いました。あまりの彼の苦悩を哀れんだ恋人のアポロンは、キュパリソスを永遠の哀悼を表わす糸杉へと変えました。以後、哀悼の木として墓地のそばに糸杉が植えられるようになりました。一説にはキリストが背負った十字架はこの木で作られたとも言われています。「キプロス島」の語源は、ギリシャ語で「糸杉」の意味だそうです。ゴッホの有名な糸杉の絵にも、死の予感を感じてなりません。