第一部の日本歌曲は、福井さんのこれまでの人生のアルバムを見せて頂いているよう
に感じながら、聞きました。
ずっと昔、幼いころに背負われて見ていた「赤とんぼ」~ 砂山に腹ばいになって
「初恋」の痛みに思いをはせる日~
10年の月日がたって、1つ1つ希望を失った「木兎」~過ぎ「ゆく春」を
惜しむようなセンチメンタルな時を過ぎ~
僕は「結婚」してしまったー、と茶目っ気で照れたり、~山の上の一本の「さびしい
カシの木」は今ではとっても年をとり、
さびしいことに慣れてしまったー、と孤高の境地を歌い、「死んだ男の残したもの
は」命の継続こそ、明日を生きる希望なのだと
~「夢みたものは・・・」ひとつの愛、願ったものは、ひとつの幸福、それらは
すべてここにある・・・と締めくくられました。
季節の移ろいに人生の来し方、行く末を投影し、すべての出来事を受け留めて
肯定する、大きな愛のストーリーのように感じました。
第二部の「トスカ」と「オテロ」の世界
砂川涼子さんとの共演は、想像通りゴージャスなものでした。間近に聞く
お二人の歌唱の迫力と華麗なお姿。
特に砂川さんの「柳の歌」のすばらしいことといったら、美しいお姿と相まって、
まさに完璧。
福井さんのオテロはやっぱり、はまり役です。「恥と悲しみに満ちて」は
迫真の演技だったあの3月のオテロが蘇って、くぎづけ です。
「オテロの死」では自害するシーンを、顔の表情の変化だけで表現して
いましたが、ほんとうに死んでしまったのでは?と
心配になる見事さでした。中身のとても濃い、渾身のプログラムで
贅沢なコンサートにしてくださって、ありがとうございました。
(Collina)