「美しき水車小屋の娘」感想 3

2016/12/15

公演: シューベルト「美しき水車小屋の娘」

稀代の名手の歌う「水車小屋」の凄さに、一週間ほど腑抜けになっていました。

・・・小川の底に星が沈み 銀河が雪崩れてゆく気がした・・・

松田聖子ちゃんが歌いそうな歌詞に、さすが!松本隆さんだ!と感心してたら

ミュラーの原詩でも確かにそのように書かれていました。松本さんの超訳ではない

日本語の言葉選びのセンスはやっぱり、すてきだなあ~と感じました。

CDで聞いていたときには〈体育会系〉な音楽だなあ、という印象でした。

アスリートのように極限まで実力を発揮しようという切れ味鋭い音楽。

12年後のこの日、初めて聞いた生演奏では、横山さんのピアノはまろやかで

手を鍵盤に置くと自然にピアノが歌いだすというような滑らかさ。

そして、福井さんの磨き抜かれた美声と縦横無尽の表現力の素晴らしさ!

粉の白さ、リボンや木々の緑色、青い花・・鮮烈な色彩が飛び出してきました。

粉ひき青年の明るい希望から始まり、恋の喜び、葛藤、嫉妬、苦悩、そして死へ向かう

ドラマを固唾をのんで聞いていると、息が苦しくなってしまい、№12休憩(!)で一度、

間を置かれたのは聴衆も一息つけてありがたかったです。

青年の入水とともにホールにも青い水があふれ、私も川底に沈んでピアノの音色とたゆたっている

ように感じました。哀しさと救済された安堵感が混ざり合ってホッとしつつ泣きたいような

甘悲しい余韻が素晴らしかったです。

福井さんの描く若者像、青年と言うより少年は、パルジファルの時も思いましたが、

世界名作児童文学の登場人物のように清潔感があり、ナイーブで、とってもすてきです。

「水車小屋」を歌いきった解放感からの「魔王」の爆発的でイキイキした歌唱は楽しかったです。

(Collina)