宮崎国際音楽祭 『椿姫』

2017/05/18

公演: 宮崎国際音楽祭 ヴェルディ 歌劇『椿姫』

このオペラで一番好きな所は、ヴィオレッタが「花から花へ」で♪快楽を追って、楽 しく生きて行くのよ♪と

歌うのに、遠くからアルフレードの愛の歌が聞こえてきて、芽生えた恋心とせめぎ合 いになるところ。

愛は全宇宙の鼓動・・・とは、なんて大きなことを言うのでしょう。

舞台袖からテノールの声だけを聞かせることが多いシーンだけど(それも想像力を刺 激して楽しいけれど)今日は、バルコニー席に

姿を現して歌われた、素敵な演出。バルコニーの手すりを掴み、身を乗り出すように 歌う様が情熱的なアルフレードだった。

2幕 ヴィオレッタがアルフレードに「私を愛してね、私があなたを愛するように愛 してね」と歌うところが、このオペラの頂点かな?

男は女性の重い決意の言葉を軽く聞き流す。いつも、ここでヴィオレッタの心情を思 い、ヴェルデイの劇的な音楽に涙が溢れる。

福井アルフレードはここで、ふんふん・・とあまり身を入れて聞いていない風だっ た。

フローラの夜会に現れた時の冷静を装ってにこやかに登場するところ、激高して大金 を投げつけるところ、ハッと我に帰り、

なんてことをしてしまったんだとボー然とするところ・・・いつもながら、若者アル フレードになりきった演技が本当に

上手だった。

中村恵理さん。欧米で御活躍の名声を聞いていたので、今回の共演を楽しみにしてい た。張りのあるスピントの声のみずみずしさ。

言葉一つ一つがくっきり立って聞こえる明確な発声。一気に高音へ駆け上がる正確 さ。素晴らしかった。

福井さんの大きな翼の上で、安心して歌っているように思えた。

父ジェルモン役のシュレーダー氏の、知的で穏やかな役へのアプローチも声の上品さ もいいなあ、と思った。

ライナーキュッヒルさん率いるバイオリンの音色の美しさ、特に3幕冒頭の演奏、こ こはこんなに綺麗なんだ!と。

広上さんの指揮は、オペラを退屈させない。緩急自在、盛り上げが上手で、歌手の聞 かせどころでの呼吸もオケとバッチリだった。

宮崎の聴衆のこのオペラを一年間待ち焦がれていた、というワクワク感も相まって、 とっても素晴らしい、幸せな演奏会だった。  (Collina)