「アイーダ」講座リポート

2018/08/05

公演: 福井敬と語る「アイーダ」の魅力

音楽評論家 加藤 浩子さんと福井敬さんとの

対談形式での「アイーダ」講座。

 福井さん登場するなり、「清きアイーダ」の熱唱。

生の声がババンと体に当たり、ラダメスがどんなに勇猛な司令官だったのか

身を持って理解させられました。

 夏の昼下がり。眠くなったらどうしようというのは杞憂でした。さすが、オペラのスターとして最前線で長年活躍され、ヴェルディ作品26作品のうち13作品歌われている方ならではのお話ばかり。加えて大学教授としての流暢な語り。ヴェルディ以前のオペラと以後のオペラとの違い、よりドラマティックに歌うためのブレスの違い等、笑いを交えての興味深いお話が盛りだくさん。途中、加藤浩子先生の海外での「アイーダ」びっくり演出のお話(冒頭、ラダメスとアムネリスがキスをしていただとか、ラダメスとアムネリスが夫婦の設定だった等)も面白く、身を乗り出して聞いていました。

 最後の質問コーナー。オペラの歌詞にも出てこないことを聞いていいのかなと思いはしたのですが、質問させていただきました。「ラダメスは、アイーダのせいで地位も名誉も命も失ったのですが、アイーダを責めることもなく、そこが男気があるところですが、責める気持ちはなかったのでしょうか。」

 福井さんはきちんと答えてくださいました。

「戦いの場面はヴェルディのオペラにあまり出てこない。戦いは外でやって帰ってきましたという場面から始まる。ラダメスのアイーダに対する愛は、個人的なことだけど、そのために自分の手で大勢の人間を殺さざるをえなかった。国のために人を殺して賞賛されている状況。ラダメスは本来は弾劾されるべき人間が、賞賛されているとわかっている。自分の愛を貫くために選択してとった結果だから、ラダメスはまったくアイーダに怒りを感じない。彼は誰も責めない。アムネリスも責めない。アムネリスは自分を愛してくれているだけだから、それはなにも悪いことではない。彼女は、アイーダのことを貶めようとはしていないし、敵国の捕虜である女王を保護してきちんとした地位に置いている。素敵な女性なのに、そこに恋愛感情が入って、見境がなくなっている。彼女はその状況を自分でわかっていて最後、2人のために祈りを捧げている。ヴェルディも考えてそこを書いている。それが素晴らしい。」(会場から拍手)

 アムネリスのことを素敵な女性とおっしゃっている時点で、目の前で、本物のラダメスが日本語でお話されているようで、軽い興奮を覚えました。福井さんは演技されているとか、なりきっているわけではなくて、ラダメスその人でした。超人的なオーラも半端なかったです。(YY)