レビュー

モーツァルト歌劇「クレタの王 イドメネオ」演奏会形式

(2007年7月17日 16:09)

東京フィルハーモニー交響楽団 定期演奏会

2007年7月11日午後7時 東京オペラシティーコンサートホール

2007年7月15日午後3時 Bunkamuraオーチャードホール

指揮・チェンバロ  チョン・ミュンフン

イドメネオ 福井 敬 
イダマンテ 林 美智子 
イリア 臼木 あい 
エレットラ カルメラ・レミージョ 
大司祭 真野 郁夫 
海神(ネプチューン)の声 成田 眞 
合唱 東京オペラシンガーズ 
チェロ(通奏低音・主席) 黒田 正三 


すばらしい演奏!今年の上期オペラのトップ3の中に入るのではないかと思えるぐらい。

イドメネオはモーツァルト25歳のときの作品で、かなり熱を入れて書き、本人も大変気に入っていた(公演パンフより)。とにかく、音楽がすばらしく、アリアとレチタティーボでつづられる音楽は途切れるところがなく、演技がなくても音楽だけでぐいぐいと物語の中に引き込まれる。また、そこに効果的に合唱が入り、音楽を盛り上げるので、本当に2時間の演奏がアット言う間に終わってしまった。

この公演については、やはり、マエストロ・チョンの力と東フィル健闘が光っていたと思う。モーツァルトもオペラも熟知したマエストロは、作品の美しさ、悲しさ、喜びを余すところなく表現し、それに東フィルはよくこたえていた。

それから、もちろん、福井さんを初めとするソリスト陣もすばらしかった。女性3人のソリストは、それぞれ性格も立場も違う人物を濃厚に描いていた、林美智子さんのイダマンテは、もちろん男性役を女性が演じるのだけれど、宝塚歌劇の男役のような林さんは、声がとても美しい、うっとりするような王子様だった。その相手役の臼木あいさんは、林さんにぴったり。二人の愛を語るデュエットはなんとも美しく、とろけるよう。それから、カルメラ・レミージョさんの歌のすばらしさ、すごさ!完璧なテクニックで最後の劇的なアリア「オレアスとアイアスの苦しみを」を歌ったときは、思わず客席から大きな拍手が起こり、音楽が中断されてしまうほどだった。

福井さんは、クレタの王として、一人の父親としての苦悩や葛藤を、七色の声で表現し、その巧みさに圧倒された。特に、「生贄はイダマンテ」と告白するところなど、ぞくぞくするような感じで、全く演技がないにもかかわらず思わず涙ぐみそうになった。

合唱もオケと一体となって、このオペラを盛り上げていった。随所で効果的に合唱が入り、ソロの緊迫感から解放される。その合唱が背景を描き、舞台を転換し、見ている人の想像力を刺激する。合唱がそんな役割を与えられて、それを全うしたオペラシンガーズもまたすばらしかったと思う。

マエストロのメッセージで語られていたように、「演奏者も聴衆もともに、“どこまでも音楽に耳を澄ます”」ことで、このモーツァルトのすばらしい音楽を堪能できた演奏会だった。

イダマンテ役の林美智子さんと


この演奏をご覧になったサイト読者からの感想です。ありがとうございました。

一番感動したところはイドメネオが、「生贄はイダマンテだ」と告白する場面でした。明朗で素晴らしい歌でした。それまでのぐずぐずしていた苦悩が払拭され、最愛の息子を生贄に出さなければいけない哀しみをぐっと内に秘めながらも王として運命を堂々と引き受ける覚悟を決めた心境が歌を通して伝わってきて、驚いてしまいました。その後のイダマンテに王位を譲るという歌は、喜びに満ち溢れていて、福井様の体からぽろん、ぽろんと花がこぼれおちていくかのようで素敵でした。一緒になって、顔が緩んでしまいました。演奏会形式を観るのは初めてでしたが、スピード感があってドラマがぎゅっと濃縮されてとっても面白かったです。充実感でいっぱいになって帰宅しました。ありがとうございました。(Y)