レビュー

素晴らしいコラボレーション<福井敬&スカレーラ>

(2008年6月27日 23:59)

2008年6月26日(木曜日) 19時開演  紀尾井ホール

第85回 グローバルクラシックコンサート 華麗なるデゥオ・コンサート  


福井敬(テノール)   ヴィンチェンツォ・スカレーラ(ピアノ)

プログラム

一部

グリーク 君を愛す 
グルック おお 私の優しい情熱が 
チェスティ 私の偶像である人の周りに 
スカルラッティ 陽はすでにガンジス川から 
デュパルク 旅への誘い 
フォーレ 夢のあとに 
マスネ 青い瞳をあけて 
トスティ 魅惑 
 君なんかもう 
 理想の人 
 暁は光から 

2部

団伊玖磨 ひぐらし 
 紫陽花 
リスト ペトラルカのソネットより「私はこの地上で天使の姿を」 
                「平和が見つからず・・・」
プッチーニ トスカより「妙なる調和」 
       「星は光ぬ」
 トゥーランドットより「誰も寝てはならぬ」

アンコール

小林秀雄 落葉松 
フォルボ彼女に告げて 
越谷達之助 初恋 
ブロドスキー ビーマイラブ 
カルディッロ カタリカタリ 

一流の音楽家が本気になってコラボレーションすると、こんなにもすごい事になるんだと実感したコンサートでした。アンコールも5曲もあり、演奏する側もノリノリ、聞いているほうも、どんどん興奮して時間を忘れてしまいそうでした。

今日は、いつも聞いている福井さんの音楽がまるで違っていたのです。最初は軽くイタリア歌曲から始まり、お互い軽いジョブを交わしあう感じでした。なんだか、いつもより違う感じだなと思いながら聞いていて、だんだん、「そう来るなら、こう行くぞ。こう来たのなら、これでどうだ!」というようなピアノと歌のコラボレーションが始まっていったのです。

2部からは、お互いパワーが全開。持っている楽器が声とピアノの違いだけで、二人の歌心、思いが交差しあい、丁々発止の様相を呈してきたのです。特にすごかったのは、「星は光ぬ」。もしかしたら、オーケストラよりも繊細に歌に反応できるピアノのほうが、イメージをかきたてられるのかも知れません。歌にこめられた情念を、ピアノが負けじと深めていき、今までに聞いたことのない「星は光ぬ」でした。

2部とアンコールでは、いくつか日本語の曲も披露されました。イタリア人が日本語の曲?と最初は意外でしたが、これがまた良いのです。福井さんは日本語の曲には特に思いいれが強いのか、時々演歌のようだと思うときがありますが、今日は全く違います。いつもは湿度80%の演歌なのに、今日は湿度10%。乾いています。湿気がありません。きれいな水彩画のような日本歌曲でした。

デゥオ・コンサートというように、本当にお二人の緊張感が聞くものにもびしびし伝わってきて、まるで、巌流島の武蔵と小次郎の果し合いの様でもあり、はたまた、二人の男が一人の女に競って愛を語りかけている様でもあり。今日のこのコンサートに立ち会えた幸せを噛み締めていました。

それにしても、今日のコンサートの主催はグローバルユースビューローという旅行会社。公共ホールの主催コンサートではありえない贅沢なコンサート、こんなにも質が高く、しかも宣伝もチケットの一般売りもなく紀尾井ホールがほぼ一杯になっているなんて。びわこホールの不調が伝えらたりする中で、いい音楽を支えていくのは、大昔から今もやはりいいパトロンお陰なのだと実感した夜でした。


デゥオ・コンサートについて投稿していただいた皆様からの感想です。

素晴らしい歌ばかりの中で特にリストの「平和がみつからず」を聴いて、あまりの凄さにもうこのまま外部との接触を絶って、この歌の感動の余韻を抱いて一週間ぐらい何もせずに過ごしたいと思いました。歌詞の意味はわからなかったのですが、自分の中の醜いことや辛い事が整理されて解消されたかのようでした。帰宅して歌詞の意味を知って納得しました。
Y
いつも『福井ワールド』に浸っている私を羨ましがっていた夫(またはヤキモチ?)が、とうとう『生福井様初体験』をしました。すーっと心地よく聴けて、かつ心を熱く揺さぶられ、その感激はきょうもまだじわじわと膨らんでいるようです。まさに「本物に接した」ということでしょうか、夫にとって素晴らしい経験でした。もちろん、私にとっても言うまでもありません、熱い感動の一夜でした!スカレーラさんによって、福井さんの個性・素晴らしさがどんどん引き出され、いつものようにうっとりしたりワクワクしたり、意外性に驚いたり、本当に楽しく酔いしれました。デュパルクとフォーレはもう少し陶酔感を期待していました。日本歌曲は、スカレーラさんのカラーが強く感じられ、それは、彼の日本歌曲へのアプローチに対する福井さんの敬意でしょうか。私の中ではまだ消化できていないので、放映でもう一度聴けるのがとても楽しみです。(A。Kさん)