4月25日 福井敬テノールリサイタル
(2009年4月27日 10:06)2009年4月25日 15時開演 彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール
プログラム
G,F,ヘンデル | 歌劇《セルセ》より“オンブラ・マイフ” |
W.A.モーツァルト | クローエに |
W.A.モーツァルト | 歌劇《コジ・ファン・トゥッテ》より“恋の息吹は” |
G.ドニゼッティ | 一粒の涙 |
G.ドニゼッティ | 歌劇《愛の妙薬》より“人知れぬ涙” |
V.ベッリーニ | マリンコニーア |
V.ベッリーニ | 私の偶像よ |
G.ドニゼッティ | 歌劇《ラ・ファヴォリータ》より“優しい魂よ” |
休憩
G.ヴェルディ | 歌劇《椿姫》より“燃える心を” |
G・ヴェルディ | 乾杯 |
J・マスネ | あなたの青い目を開け |
J・マスネ | 歌劇《ウェルテル》より“なぜ我を目覚めさせるのか、春風よ” |
P・マスカーニ | セレナータ |
P・マスカーニ | 歌劇《カヴァレリア・ルスティカーナ》より“母さん、この酒は強いね” |
G・プッチーニ | 歌劇《トゥーランドット》より“誰も寝てはならぬ” |
アンコール
ロッシーニ | 踊り |
ビキシオ | マリウ。愛の言葉を |
福井さんのリサイタルは雨の日が多いのですが、この日も雨でした。そして、雨の日のリサイタルは、なぜか特別に思い出に残るものが多いです。今回も本当に雨でよかったというか、がんばって来た人への特別のご褒美のような素晴らしいリサイタルでした。
今回のリサイタルはオペラ特集。、最近あまり福井さんが歌うことがない、モーツァルトやドニゼッティの曲が前半歌われました。一般的にオペラでこういう曲を歌うのは、若手テノールと相場が決まっていて、曲も旋律も綺麗で、今まではそれを綺麗に歌ってくれると満足していました。しかし、それを福井さんが歌うとこんなにも違うのかと唖然としました。唖然と言うより当然なのでしょうが。福井さんの歌は、綺麗なだけで終わらず、歌の内容も、その中の感情も全部表現しているのです。それを歌心があるという人もいるでしょう。福井さんの歌にはドラマがあるという人もいます。つまり、綺麗で整っているだけでは感動はない。それを超えた表現の中に感動があるのです。ヘンデルやモーツァルトやドニゼッティ、ベッリーニにしても、綺麗なだけの曲を作ったのではなく、その中に人間のどろどろした感情や、切ない気持ちを曲の中にこめていたはずです。外国語で曲の意味がストレートに分からないからこそ、音楽でそれを表現してしまう福井さんの歌は素晴らしいのだと、また深く実感しました。
後半はヴェルディやプッチーニなどお得意の歌。しかし、その中にマスネやマスカーニもあり、「カヴァレリア・ルスティカーナ」が聞けたのが凄い収穫でした。これも有名ですが短いオペラで、上演はよくされますが、福井さんがこの曲を歌うことはほとんどないと思われます。「道化師」とペアで上演される事も多いので、今後上演があっても福井さんは「道化師」の方を歌われるのでしょう。このオペラは男女の愛憎の物語。そして結末は決闘でつけるという、究極の感情を表した歌です。普通の気持ちでは聞けない、歌う方もその土壇場の気持ちをいかにこめて歌えるかという激しい曲です。そこは福井さんだからこそ。たったこの1曲でこのオペラの全てを物語っているかのようでした。
オペラのアリアと言うのは、歌手が全力の集中力を傾けて歌う、オペラの中でも一番のハイライトですから、この日のように、アリアばかり歌う演奏会というのは、あまり見ません。せいぜい、最後の2、3曲歌えばいいほうです。福井さんも合間のお話の中で言っておられましたが、アリアの合間に歌曲でつないで、結局一人で全部歌ばっかりというのは、本当に大変な事だったと思います。なのに、アンコールを2曲も。まさに雨の日特別大サービス!終演後のサイン会も大いに盛り上がっていて、来た人みなが笑顔で帰った演奏会でした。