オテロインタビュー

(2009年12月25日 22:25)

キャストインタビュー[オテロ]福井敬
人間の弱さを強い部分とのコントラストで表現してみたい
       『オテロ』キャストインタビュー 文・山崎浩太郎 写真・若林良次


 

テロを演じるのはもちろん初めてです。日本ではめったにやらないオペラで、数あるオペラのなかでも、すべてのスタッフにある種の覚悟が必要なものですから、歌い手もそれに応えて、それなりの形を残さなければなりません。今回、二期会からこのオテロという、いちばんドラマチックな役柄で声をかけていただきまして、自分の本来の声に合うかどうかは葛藤もあり、不安もないわけではありませんが、次のステップ、新しいものに挑戦することの重要性を考えて、お引き受けしました。
 ヴェルディのオペラは、亡くなられた若杉弘先生がびわ湖ホールで上演されたとき、七本歌わせていただきました。『ドン・カルロ』(※)以外は、ほとんどが日本初演だったと思います。そのときは、初期から中期にかけての若くて意欲的で挑戦的なヴェルディのもつ熱い部分に、とても共感できました。これだけまとめて歌う機会はめったにもてるものではありません。タイミングに恵まれた点もありますが、若杉先生の将来を見すえたお考えには本当に感謝しています。得がたいものをいただくことができました。
 ではそのあと、自分のものとして表現できるのは何だろうと考えたとき、ベルカント以来のナンバー・オペラを脱して、ヴェルディがより自由な音楽をつくりだした、総仕上げのオペラ『オテロ』に、今だから向き合えるのではないかと。実は、びわ湖ホールで稽古中に若杉先生から「最後にはオテロをやろうよ」と、ちらっと聞かされたことがあるのです。具体化はしませんでしたけれども、何という偶然か、それが二期会でかなう。何か運命的な、特別な思いを感じています。
 オテロは難しい役ですが、いつかはやってみたいものでしたし、今の年齢でないとできないでしょう。あまり年がいっては声が苦しいし、若すぎては表現ができない。
 この役には、お客様それぞれがさまざまなイメージを抱かれていると思います。歌手でいうなら往年のデル・モナコ、ドミンゴ、現代ならホセ・クーラとか。そのなかで私のオテロをつくれたらいいなあと思っています。嫉妬に身を崩していく背景には、人間のさまざまな対立、身分、階級、民族、宗教などが複雑にからんでいる。演出家とマエストロがどこをクローズアップしてくるかにもよりますが、ただ声を張りあげるだけでない、苦しみや悲しさ、境遇、影など、人間の弱さを強い部分とのコントラストで表現してみたいと思います。
 運命的なものを感じさせるドラマチックな役にやりがいを感じます。王子様とか二枚目とかは、うーん、どちらかといえば苦手なんです(笑)。
 劇中の人物の生々しい感情も、舞台では思いっきり出せるのが面白い。歌とドラマが融合しているオペラが好きなんです。ですから、お客様には自分の歌や声がいいというより、あの役がかわいそうとか、素敵でしたとか、役柄のことをいっていただけると嬉しく感じますね。
※編集注:イタリア語5幕版日本初演