レビュー

音のつどう風景 福井敬リサイタル

(2010年4月27日 23:19)

所沢センターミューズ キューブホールは客席300あまりの小さなホールです。久しぶりに、福井さんの声を間近で堪能しました。残念ながら満席ではなかったのですが、所沢の音楽愛好家の方々による手作りコンサートで、ほのぼのとして、とてもくつろげる楽しいコンサートでした。詳しいご報告はこのネットで知り合った方々が投稿して下さいました。皆さまに支えられてこの福井敬.netは運営させていただいております。福井さんを介した一期一会の出会いに心より感謝いたしておりますとともに、今後もどうぞよろしくお願い申し上げます。


 

 

2010年4月23日(金) 19:00開演 
 所沢市民センターミューズ キューブホール
 
 テノール: 福井敬   ☆ソプラノ:渡辺由美香   ピアノ:谷池重紬子
 
 I 部
 
 君を愛す           グリーグ
 ☆春の声            J.シュトラウス
 夢のあとに           フォーレ
 マリウ愛の言葉を       ビキシオ
 荒城の月            瀧 廉太郎
 ☆ゆく春             中田喜直
 恋のかくれんぼ         武満 徹
 ぽつねん             武満 徹
 死んだ男の残したものは   武満 徹
 小さな空             武満 徹
 
写真提供 及川様

 Ⅱ 部
 
 「学生王子」より “セレナード”   ロンバーグ
 「トスカ」より   “妙なる調和”   プッチーニ
 ☆「ホフマン物語」より  “森の小鳥はあこがれを歌う”   オッフェンバック
 「ウエルテル」より  “なぜ我を目覚めさせるのか、春風よ”  マスネー
 ☆「ハムレット」より“狂乱の場 “遊びの仲間に入れてください”  トマ          
  「トゥーランドット」より “誰も寝てはならぬ”   プッチーニ
 
 


 
 福井敬さんのコンサートの日、朝は目覚めも良く、
 
 モタモタ作っているお弁当もなぜか、いつもより早く出来上がり、
 
 体のキレが全然違う。
 
 会社では、とっても上機嫌で
 
 「今日は所沢まで福井さまのコンサートに行くんです」
 
 とあちこちに言いふらし、就業間近に仕事がこないように根回し完了。
 
 仕事が終わって、ダッシュで電車に乗り
 
 会社をうまいこと早く出られて幸せだな~。
 
 電車が遅れることもなく動いているのも幸せだし
 
 予定通りに乗り継いで、開演5分前に席に到着したのも幸せだし
 
 とっておいてもらえた席が舞台のまん前というのも幸せ。
 
 そういえば、福井さんの歌を聴いて以来、
 
 他人を羨むという事がほとんどなくなりました。
 
 コンサートが始まる前からそうとうの幸福感です。
 
 でも、福井さんの歌が始まったら!
 
 至近距離の上に、小さいホールに声が響いて、
 
 大声量の中にすっぽりと自分が入ってしまったかのよう。
 
 自分の前も後ろも右も左も福井さんの声。
 
 はあ~ この美しさ 信じられない
 
 知っている曲ばかりなのに、あまりに身近にせまる声の美しさに息を呑む。
 
 私の全細胞は驚きで、歌を聴くたびに総立ち状態。
 
 武満徹さんの歌は「恋のかくれんぼ」で華やいだ気分になり
 
 「ぽつねん」と「死んだ男の残したものは」で心が凍りつき
 
 「小さな空」で解凍→涙があふれ、子供の頃のことが
 
 走馬灯のように思い出されるという状態がいつも繰り返されて
 
 涙が出るたびに自分の感情を不思議に思います。
 
 「春を歌うということですが、テノールの歌ではあまり春の歌はないんですよ。」
 
 と福井さんはおっしゃっていましたが、
 
 「荒城の月」で見事な夜桜を見せて頂きました。
 
 「学生王子」のセレナードは、客席を周って歌ってくださいました。
 
 列の真ん中だったので、目の前でという機会はなかったのですが
 
 斜め前方で振り向いて歌われた輝く声が、ちょうどお客さんとお客さんの間を通って
 
  直撃!!
 
 一瞬、時が止まって頭の中が真っ白・・・
 
 その後、心の中は満開の桜 
 
 「なぜ我をめざめさせるのか、春風よ」では、
 
 本当に生暖かい春風が腕に感じられて、これってどういうことなのでしょうか!?
 
 今年はいつまでも寒くて、桜を見る気がしなかったのですが
 
 やっと春の気分になって桜を見た満足感を得ることができました。(Y)
 
 
所沢市民文化センターホール ミューズのある一帯は、《日本の航空発祥の地》だそうで、最寄の航空公園駅は
双発機を正面から見た形にデザインされているそうです。福井さんの操縦する歌の翼に乗って、空高く飛べたらいいな
・・・と、メルヘン気分で、冷たい雨の降る中を、ホールへと続く立派な欅並木をうきうきと向かいました。
 
第一部は、各国語による歌曲の数々。
『ドイツ語はリズム感の美しさ、フランス語は愛を語る言葉と美しいメロデイー、そしてイタリア語は、なぜか
イタリアの青い空を感じさせます』と、福井さんがおっしゃっていたように、今日の「マリウ 愛の言葉を」は弾けるようにパーンと歌い上げて、とっても良かったです。
 
『語彙の豊富な日本語は素敵な言語。ミラノに留学していた時、改めてその良さを感じました。』とおっしゃってましたが、日本の歌は、歌詞世界が分かりやすいだけに胸に響きます。
武満徹の4曲は、老いの孤独や、世界中で続く戦争、郷愁・・・といったテーマが、ストーリーテラーの福井さんによって、語られているようでした。厳しーいお顔で、聞く側に人生の覚悟を問い詰めるように歌われ、怖くて泣きました。
それにしても、こんなに老齢の女性が多い会場でよく、「ぽつねん」なんて歌えるなあ、と勇気に驚かされます。
 
第二部は、一転。薔薇色の緞帳が上がって「愛の劇場」が、スタート!
待ってました、「学生王子のセレナード」。ホール横扉から登場して、客席を回って歌ってくれました。
楽しくって、この曲もこの演出も、大ー好き。色とりどりのお花を撒きながら歌ってるように見えます。
 
300人ほどのホールで福井さんの美声を間近に聞く幸せ。
トスカ「妙なる調和」は、ぎゅっと圧縮された声が至近距離から矢のようにビシビシ飛んできて痛いくらい。(私のために、歌ってくれたのね~)みんながそう、思ったことでしょう。
 
絶品だったのは、ウエルテル「なぜわれを目覚めさせるのか、春風よ」です。
白亜の内装のキューブホールが、まさに立方体の白い箱が、福井さんの歌声と共にピンク色の水が流れ込んできて、どんどん歌声と共に天井まで満ちていく・・・。
ピンクの水の渦の中で、歌声は金色の光のように輝いて、・・・歌声の水位がどんどん上がって、あ~息も出来ずに苦しい、・・・体が痺れて動けない・・・
あ~でも気持ちいい・・・力を抜いたら、水流に巻き込まれて・・・溺れてしまったのでした。
 
双発機で、のんびり空の旅、どころかジェット戦闘機に乗ったみたいで、足はガクガク、しばらくは立てませんでした~。
 
( C こと Collina )