レビュー

ベルリオーズ 歌劇「ファウストの劫罰」

(2010年7月15日 11:44)

東京二期会オペラ劇場

7月15日、17日、東京文化会館大ホール

ファウスト 福井敬 
マルグリート 林正子(15日)小泉詠子(17日) 
メフィストフェレス 小森輝彦 
ブランデル 佐藤泰弘
メインダンサー白河直子 
  
指揮 ミシェル・ブラッソン 
演出・振付 大島 早紀子 
合唱 二期会合唱団 
児童合唱 NHK東京児童合唱団 
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団 

15日と、17日、両日見てきました。マルグリート役の林美智子さんが体調不良のため、おやすみ。15日はもう一組の林正子さん、17日はカヴァーの小泉詠子さん(なんと、まだ大学院生!!)が出演でした。

珍しいオペラだけに、初めて見る方も多かったのではないでしょうか。私は、久しぶりに何も予習せず臨んでみました。しかし、予習せずともよくわかる!なぜなら、ダンスをふんだんに使った演出で、全ての情景を説明してくれていたからです。ファウストはいろいろな作曲家が題材にしている有名なゲーテのお話ですが、キリスト教の宗教感のない私には、判ったようでわからない話に思っていました。でも、難しい事はおいておいて、音楽付きの絵本として楽しめるオペラでした。

今回は、オペラの第一は音楽だと思っている人にとっては、ダンスは邪魔でひどい演出!オペラをダンスも含めた総合芸術として楽しんでいる人にとっては、とても楽しい演出と意見が分かれたようです。ダンスは、最初は教会のフレスコ画のような影絵、誘惑する妖精、悪魔、天使とその情景にあわせて多彩でした。ダンスの概念が覆されたような感じです。人間の体ってこんなに色んなことを表現できるんだと、見とれてしまいました。

でも、それだからこそ、その中で存在感を見せなければならない歌手は大変だったと思います。しかし、演出に負けず、音楽は素晴しかったです。ミシェル・ブラッソン指揮の東フィルによる芳醇な音で、フランス音楽の醍醐味を味わいました。イタリアオペラのように判りやすいアリアではありませんが、哲学的であり、ファウストの内面を吐露していくようなアリアは、福井さんにぴったりでした。また、後半は、福井さんの声の魅力でマルガリータが恋に落ちていくのが納得の熱唱。こういうフランスオペラの時の福井さんは、英雄的な雰囲気と、艶やかな色気というか、音楽にオーラがさすような感じがしました。圧倒的な存在感を見せつけて下さった福井さんに最高のブラボーをお贈りしたいと思います。

15日出演の林正子さんと

 

 

 


 

 

 

 

皆さまからの感想

面白かったです!!15日の初日に行ってきました。H・アール・カオスのダンスが、美しく、禍々しく、不気味で魑魅魍魎な世界を実際に見ている気になりました。空を滑空するシーンもあり、想像もつかない珍しい光景に次は何が出てくるか、ドキドキして一瞬一瞬が楽しみでした。
 ファウストは、老人の役だとずっと思っていましたが、若返った福井さんにびっくり。ロン毛で苦労知らず、何も考えていないような明るい表情に、これなら若気の至りでマルグリートをひどい目にあわせてしまってもしょうがないなと思いました。マルグリートへの愛を語る歌は本当に素晴らしかったです。もう少し、歌が長かったらなあと思いました。
マルグリート役の林正子さんのどこか悪魔に繰られている感じの表情も印象的でした。
ファウストが地獄に落ちた瞬間、ダンサーが天井から落ちてきたので心底驚いて「うわっ!」と叫んでしまいました。地獄のシーンは不気味で本物以上に本物を垣間見た気が感じました。その後のマルグリートの昇天するシーンでは、ダンサーのフライングを見ながら、宗教画の天使が抜け出て飛ぶとこんな風になるのだと感心してしまいました。
オペラ、ダンス、サーカス、お化け屋敷をまとめて体験したような、刺激的で楽しい舞台でした。(Y)
 

 夏休みを取って行ってきました。なじみのないオペラで、事前に予習して、ずいぶんスケールの大きな物語なのかな、それに演出がダンスということで、いったいどんなふうになるのか、という感じでしたが、公演は予想以上に楽しめました。福井さんの歌唱は安定した魅力的なものでしたし、第4幕の演技は相手がおらず難しそうなのに雰囲気が出ていて、素晴らしかったと思いました。かなりの場面に大島早紀子さん演出のコンテンポラリーダンスが縦横無尽に幻想的に配され、少し長い間があっても飽きさせません。メインダンサーの白河直子さんの舞踊は特に素晴らしく、歌劇とダンスのコラボが成功していたと思います。あとオケが素晴らしかった。プラッソンさん指揮東京フィルが素晴らしいフランス音楽をずっと聴かせてくれました。目も耳も贅沢に楽しませていただいたひとときでした。(KT)


15日、20列の18番という、ほぼ中央から舞台を堪能させていただきました。オテロの時とはまた違う役作りのなかにおいて、福井さんの艶やかにしてまた深みのある声に酔いしれました。音楽もストーリーによく合っていて、久しぶりに大満足の公演でした。 後ろで録画していたようですが、DVDかCDが出ないものですかねえ。(YA) 

なんとも賑やか、煌びやか、派手な舞台でした。
ゲーテの原作を読んでも、なんだかピンと来なくて、ファウスト役なんて福井さんに似合わないのでは・・・
と心配してました。しかし、CDで予習に聞いたニコライ・ゲッダの美しい声を聞いて、これは、福井さんの
声質に似ている、福井さんはもっと素敵な声だから、これは素晴らしい舞台になるに違いない!と一転、期待して
向かいました。
15日の初日は、最前列で見ました。幕が上がると、ひげもじゃの老ファウスト博士が一人、
大きな本を抱えて佇んでいます。思わず、くすっと笑ってしまいました。孤独な老人というよりは、クリスマスの
デパートにいるサンタクロースのようで、なんとも愛嬌があって、福井さんがこんな格好している!という驚きと
可笑しさにニヤニヤしてしまいました。しかし、メフィストフェレスにより若者に変身したお姿の素敵なこと!
立襟のシャツ、長いジャケット、ブーツ姿がとてもよくお似合いでした。
メフィストフェレスにつれて行かれた酒場のシーンでブランデルが歌っている間も後方で座って飲んでるファウストが
初めは物珍しそうに、楽しげに、そのうち嫌気が差してここを出よう、というように細かく芝居をしていて上手だな
と思いつつ見てました。ファウストがメフィストフェレスに眠らされ夢を見ているシーンでは、寝台にうつ伏せになって
寝る福井さんの寝顔はあどけない少年のように可愛らしかったです。夢を見つつ、マルガレータ!と呼びかける声の
なんとも甘くて、胸キュンなこと・・・。
 
舞台は大変面白く、美しく、福井さんの歌も素晴らしかったのですが、演出のコンテンポラリーダンスの激しさに
眼を奪われ、音楽に身を委ねることができず自分の中で消化不良だったので、17日にもう一度見に行きました。
今度は三階の一列目。全体を捉えることができました。音も間近で聞くよりきれいにハーモニーが溶け合って、
この日の演奏、合唱はとてもよかったです。そして、福井さんの歌は初日にもまして素晴らしかった!!
輝く張りのある声を聞かせる時は金色のしぶきを放ち、甘く、色気を感じさせる歌の時は薔薇色の風に包まれ、
そして強い意志を披露するときはまばゆい光が体から放射されてゆくのが見えました。
 
たゆたう様に流れる川のようなベルリオーズの音楽は美しくていいですね。わかりやすいアリアはあまりないけど、
私の好きなファウストの歌。
 
No.3 1部の冒頭  平原で歌う『冬は去り…』
No.2 3部のマルグリートとの二重唱
No.1 4部の 自然を称える歌。  寝姿から起き上がって歌う力強さが若々しくて、リサイタルでも歌ってほしいな。
 
                                    ( Collina )

2010年7月21日 

朝日新聞夕刊 掲載

2010年7月22日 日経新聞夕刊 掲載