レビュー

マーラー 「大地の歌」(1)

(2011年12月 9日 19:00)

東響交響楽団 川崎名曲全集 第72回

会場:テアトロ・ジーリオ・ショウワ
指揮 飯森範親  演奏 東京交響楽団  

テノール 福井 敬  バリトン 与那城 敬
 
マーラー49歳、家族の死と自身の病気への恐怖に絶望を感じている頃の作品。
一方、49歳のテノール福井さんは、まさに油の乗り切った、円熟の時を生き、厭世という気分とは対極にあるように思えます。どのように歌われるのか、楽しみにしていました。
 
第1楽章は酒を飲んで寂しさを嘆く歌。
くりかえされる「生は暗く、死もまた暗い」を福井さんは生気溢れる輝く声で、ヒロイックに歌われました。
絶望の油絵具を塗り重ねるようなベタな表現ではなく、水彩画のような透明な寂寥感が浮かび上がりました。
 
第3楽章は、中国風なメロデイーや楽器の使い方が楽しく、中国庭園の池にかかる丸い橋や美しい緑の東屋が目に浮かびます。
今夏のトウーランドットでピン・パン・ポンの故郷を懐かしむ歌を思い出し、福井さんにはピン・パン・ポンのパートも歌ってほしいなあ、と思いつつ聞きました。演劇的な要素があり、少しおどけた歌い方は福井さんのお得意とするところ。
チャーミングな歌が耳に残っています。
 
もう人生に何の希望も見出せず「酒に溺れよう」と歌う第5楽章では、さらにパワーアップしドラマテイックに歌い上げ、諦観的な歌詞世界に埋没しない、福井さんの輝く個性が際立ったのでした。
表現力に巾がある、とはこうゆうことなのかな・・。
 
外に出れば凍てつくような寒さ、群青色の夜空に浮かぶ満月を見上げた時、掴み切れなかった≪無常≫というテーマがふっと天空に浮遊しているようでした。
                           (オレンジ色のCollina)