レビュー

ワーグナー歌劇「タンホイザー」(神奈川県民ホール)(2)

(2012年3月25日 14:00)

昨年、同じ企画のアイーダが地震の直後で中止になり、その時のことを思い出しながら県民ホールに向かいました。

タンホイザーは2度目、1回目は学生の時だったので初めてのようなものでした。イタリアものが好きですが、今回はもちろん福井さんのタンホイザーだから行きました。

心に深く染み入る有名な序曲のあと1幕は、正直あまり気持ちが盛り上がりませんでした。なにしろ(きっと笑われますが)、ワーグナーの描く世界、人間性、愛、宗教観など私はよくわかっていないので...でも2幕からは、歌合戦の場での福井さんの表情、声の勢い、「違う、違う、愛とは!」と葛藤しながら次第に真の己の心をさらしていく変化にはぐいぐい引き込まれていきました。もし訳も無くストーリーも知らなくても、タンホイザーの心の動きは福井さんの演技でわかったと思います。

3幕、黒田さんのヴォルフラムとの場面、苦悩のローマ語り、お二人とも素晴らしかったと思います。そして終結、静かに心に響き、気がつけばワーグナーの世界に一歩足を踏み入れることができたように思いました。でも、それにしても、男性の精神の昇華(?)のために女性をあまり死なせないでほしい、と、余計なことを...これは時代の思想や、ワーグナーさんに訴えることですかね...余談です。

私達ファンに機会があれば、とてもお優しく気さくに接して下さる福井さんが、私達と同じようにこの世に生まれて生きている福井さんが、いつもあんなにすごい役をこなされて奇跡のように思えて、今頃驚くことではないのに、オペラの間ずっと目と口をアングリ開けているような自分がおかしいくらいです。どうかこれからも、たくさん素晴らしい音楽を私達にお聴かせ下さいますように!という気持ちでいっぱいです。(A.Mさん)


オーソドックスな演出と舞台セットの美しさで、とても素敵な舞台でした。
 
公開リハーサルの折、演出補の田尾下さんが、『福井敬さんは、演出のハンペ先生の意図をよく理解してくれた演技をしてくれて、先生は満足していました。』と、お話しされてました。
福井さんの演技力のすごさについては、今更ながら・・ですが、オペラ歌手の演技というレベルをはるかに超えて、歌える役者、素晴らしい表現者、なんだなあ~と改めて感嘆しました。
 
二幕の歌合戦で、他の騎士たちへの侮蔑の表情、皮肉な笑い、俺が正しいんだ!とばかりに飛び出してヴェーヌスベルクと声高に叫んでしまうまでの声の勢いを感じさせる歌、そして一転して失言した!と悟ってからの青くなってうなだれて、ひざまずいての絞り出すような声。
面白くって、ハラハラさせて、やんちゃでどうしようもない暴れん坊な男の子なんだけど、だからこそ許して、包んであげたくなるようなお姿に、母性本能を刺激されました。
 
三幕では、ローマ語りからヴォルフラムをつきのけ、ヴェーヌスに手を伸ばすまでのくだりの息もつかせぬ緊迫感とテンポの良さに鳥肌が立ち、ワクワクしました。
劇場中を金縛りにかけて、どこか別の世界に連れて行ってしまうかのような恐ろしさと、陶酔感・・・。
ワーグナーの魔法にかかってしまったようです。   (Collina)