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「椿姫」感想(2)

(2013年3月31日 10:14)

オペラは演出によってこうも違うのかと思いました。
水沢公演(昨年8月)は、スタンダードな演出で、青年アルフレードとヴィオレッタの悲恋と若さゆえの過ちに素直に涙を流し、美しい音楽に浸り、楽しく見ることができました。今回の公演では華やかな夜会や豪華な衣装もなく、退廃的でかつシンプルな舞台に暗い照明が、ヴィオレッタの孤独感や悲劇の結末を予感させるようなものでした
常に張り詰めた緊張感が漲っていて、福井さんと砂川さんの美声の応酬、という感じ。
福井さんは貫禄と自信に満ちた壮年アルフレードのようでした。
特に2幕は凄みがあり、怒りと執着に燃えてヴィオレッタと対決するシーンは、カルメンのホセのようだし、罵倒したのちに反省する幕切れにかけては、タンホイザーを思い出してしまいました。こんな素晴らしい演技は福井さんにしか出来ないでしょう。
「誰にでも起こりうる状況」とインタビューに語られていたように、アルフレードさえ恋人というより、「道を外れた女」を糾弾する世間の一部になってしまったような、今回の演出の真意を体現された福井さんの役作りの深さと演技の上手さに圧倒されました。
終始怖いお顔で演じられていて、私も息をつめて、食い入るように重いドラマを見つめていて、泣くこともできませんでした。
(Collina)