願いがすべてかなったリサイタル

2019/12/01

公演: 福井敬スペシャルリサイタル2019 in東京

福井さんが本を取り出して、「『永訣の朝』宮沢賢治」とおっしゃった時、びっくりして飛び上がりそうでした。何回かリクエストをしていた詩。まさか、叶えてくださるとは!しかもネイティブ岩手弁。とし子の「あめゆじゅ とてちて けんじゃ」や他の岩手弁が一体どんなイントネーションなのかがずっと疑問で、その箇所だけいつも引っかかっていたのですが、やっと納得してスムーズに聞くことができました。会場は、一瞬にして雪原が広がり、福井さんの手にかかると詩というよりは映画のワンシーンのようです。最後の「わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ」福井さんのすべての歌に通底していると思いました。

 今回のリサイタルは、口に出したり出さなかったりした私の願いがすべて叶えられました。外国の歌曲が聴きたい、二重奏ばかりのリサイタルをやって欲しい、三大テノールの派手な衣装を見たいという願いに加えて、福井さんが大嫌いになってしまうぐらいの悪人の役を見てみたいという願いも、カヴァレリアで実現してしまいました。

トゥリッドゥ、見事に最低の夫でした。心の中で「わあ、ひどい!」を連発。若くてかわいい高橋広奈さんをもの欲しげに見ている姿もすごく嫌。清水華澄さん演じるサントゥッツアに心から同情しました。それでいて、あんなに醜い修羅場なのにこんなに音楽が美しいのは、奇跡です。

望み通り大嫌いになったのも束の間、次はオペラの中で一番好きな「アイーダ」の二重唱。全世界の中で、福井さんのラダメスは男気があって一番かっこいい。すぐに大ファンに戻ってしまいました。ホセ、アルフレード、トゥリッドゥ、ラダメスと全然違うタイプの役を演じ分けられて歌えるのも福井さんならでは。本当に素晴らしい体験でした。

他にも、6月の大阪公演の時は、まだ弱々しかった高橋広奈さんが、別人のように堂々と大曲を歌い上げていて驚いたこと。「旅立ちの日に」客席に座って歌われた合唱が後ろからじわじわ包み込んできて、今まで経験したことのない感動を得たこと。色々な種類の感動がありすぎてはちきれそうでした。

福井さんの素晴らしさは、出し惜しみしないことです。私は、欲が深いのでまだまだリクエストが多数あって瀧廉太郎特集や木下牧子特集やミュージカルも沖縄民謡も聴きたいです。それまでスペシャルリサイタルが長く長く続きますように。(YY)